一般社団法人 山梨県法人会連合会
平成28年度税制改正に関する提言
景気はアベノミクスによる高揚感はあるものの短納期対応に伴う人件費の増加、円安による原材料の高騰や公共工事の減少等により中小企業が太宗を占める地方経済は先行きに不安感を抱いている。また社会保障制度の安定化、財政健全化のために消費税が増税され、更に平成29年4月には10%への引き上げが予定されているが、消費税増税に国民の理解を得るために行った国会議員の歳費削減や地方議会のスリム化等「身を切る改革」は掛け声倒れの様相である。再増税の前に徹底した行財政改革を求める。
当会では昨年に引き続き「税制改正に関するアンケート調査」を実施し、昨年を上回る659社から回答をいただいた。会員企業の要望を踏まえ、地方創生の動きにも活力を与える税制の実現に向け、次のような提言を要望する。
法人税制
1.法人税率について
(1)法人実効税率20%台の早期実現
法人税率は平成27年度税制改正で現行25.5%が23.9%に引き下げられ、法人実効税率は平成27年度が34.62%から32.11%、平成28年度は31.33%に引き下げられ、以降数年で20%台まで引き下げることを目指すとされたが、日本の立地競争力の強化や国内企業の競争力強化の観点から早期に欧州、アジア諸国並みの20%台の実現を求める。
(2)中小企業の活性化に資する税制措置
平成27年度税制改正で中小法人の軽減税率の特例(所得金額年800万円以下の税率 15%)の適用期限が2年延長されたが、中小法人の活性化のために時限措置ではなく本則化とし、また昭和56年以来800万円以下に据え置かれている軽減税率適用所得金額を1,600万円程度への引き上げを求める。
2.法人税率引き下げに伴う代替財源について
(1)受取配当金益金不算入制度の課税ベースの更なる見直し
受取配当金益金不算入制度は投資に充てられる資金力が豊富な大企業を優遇する一方で、中小企業には優遇措置が適用される条件が整っていないため、法定税率に近い税率が当てはめられている。所得が大きい企業が多く負担するという税制上の公平の観点から大企業の課税強化をはかること。
(2)減価償却制度の見直しについて
減価償却の償却方法を定額法への一本化が検討課題となっている。定額法に統一すれば、5,000億円程度の税収増になるといわれているが、会計制度の基本にかかわる問題であり安易に手を付けるべきではない。会員アンケートでも半数近くが現行の評価方法を望んでいる。
3.固定資産の取得価額(土地とともに取得した建物等の取壊し費等)について
地方都市の中心商店街は車社会による駐車場問題、郊外型ショッピングモールの出店攻勢やインターネット取引の進展等の影響を受け空洞化が進んでいる。また、不動産取引の低迷、構築物の老朽化に伴い、幽霊ビル化に拍車が掛かり活性へ障害となっている。
現行の法人税制では土地とともに取得した建物等を取得後おおむね1年以内に取り壊して土地を利用する場合、取り壊し費用は土地の取得価額に算入することになっている。
地方の活性化のために取り壊し費用を資産計上ではなく経費として認めること。
所得税制
1.所得税率の見直し
所得税の最高税率が平成27年分から40%から45%に引き上げられたが、所得税制の流れの中で昭和49年に75%であった最高税率はしだいに下げられ、資産性所得も申告分離課税で低率に抑えられており、現在の所得税制は空洞化し、応能負担原理による所得再分配機能が喪失している。
税は負担できる人がより多く負担するという税制の基本に立ち返り、所得税の累進度を高めて財源調達機能の回復を図るべきである。
2.配偶者控除の見直しについて
「女性の就労を後押しするため」との理由により、配偶者控除の廃止や移転的基礎控除の導入等が議論されているが、扶養家族を持つ社員には家族手当を支給する企業も多く、103万円を超えない範囲で勤務時間を調整する者が多いため、女性の就労機会を逸している現実がある。
働き手確保の観点から、配偶者控除額を引き上げ女性就労の推進力とすべきである。その目安は社会保険加入が義務付けられる金額程度とする。
事業承継税制
土地・建物及び未上場株の相続の非課税について
未上場株の相続を非課税とすることにより、事業承継も実現しやすい。さらに事業に供している土地と建物が相続時に非課税となれば経済の活性化につながると考える。中小企業の円滑な事業承継を進めるためにも、事業用資産の土地・建物及び未上場株の相続税を非課税とすること。
贈与税制
基礎控除額の引き上げについて
個人消費は消費税増税前の駆込み需要や昨年の大雪後の備蓄強化などで好調であった前年を大きく下回っている状況にある。また例年と比べても低水準であり、全体として動きが弱い。消費拡大のために基礎控除額を現行の110万円から200万円程度への引き上げを求める。
消費税制
1.簡易課税制度と免税点制度の見直しについて
業種ごとに決めた「みなし仕入率」を使って納税額を計算する簡易課税制度は実際の仕入率とずれがあり、多くの業種で益税が生じている。
また、売上高が一定額以下であれば、納税しなくて済む免税点制度も対象となる事業者が消費税分を取っている場合があるため、税の公平と透明性の観点から両制度とも廃止すべきである。
2.軽減税率について
税率10%時に低所得者対策として軽減税率の導入が検討されているが、導入する場合は、税率8%時の税収を下回らないような軽減税率とし、正確かつ公平な納税事務実現のためにインボイス方式にすることが望ましい。
地方税制
1.外形標準課税の課税ベース拡大について
法人税減税に伴う課税ベースの拡大の中で外形標準課税も代替財源としてリストアップされており、中小企業まで課税ベースを拡大する場合は事業承継に影響を与えない範囲にとどめること。
2.固定資産税の見直しについて
固定資産税は地価の長期的な下落にも関わらず負担感が高いとの声が多い。宅地の評価については、実勢価格に配慮した評価、居住用家屋の評価は築後経過年数に応じた評価方法にするなど軽減の方向で見直すこと。
3.償却資産税の廃止または見直しについて
償却資産税は中小企業にも課税されていて、中小企業の設備投資を阻害する要因にもなっている。製造業を中心とする多額の設備を有する企業においては、償却資産税が高負担となっており、企業収益を圧迫し、企業競争力に悪影響を与えている。また国際的にも事業用資産に対する課税は稀であることから、廃止することが望ましいが、見直しを行う場合は現行の免税点150万円を300万円に引き上げること。
その他
1.二重課税の廃止について
個別間接税と消費税との二重課税の問題は、平成元年に消費税が導入された際、物品税が廃止され、自動車重量税と自動車取得税については2012年度税制改正で新車購入時や車検時にかかる重量税が一部減税になったが、石油諸税は引き続き検討するとの曖昧な表現にとどまり、結論は先送りになっている。揮発油税の暫定付加分は廃止すること。
2.マイナンバー制度の周知について
マイナンバー制度については、平成27年10月から国民へ通知され、平成28年1月から利用が開始されることとなっているが、マイナンバーの各行政手続き書類への記載やマイナンバーを含む特定個人情報の管理が義務づけられる事業者への周知が不十分と思われる。制度の導入に向けて、事業者が円滑かつ適切に対応できるよう早急に十分な制度周知の対応を講じることを求める。
3.マイナンバー制度のセキュリティについて
マイナンバー制度が平成28年1月から運用されることとなっている矢先、年金情報流出が報道された。当会では「制度の実施に当たっては個人情報の管理・保護の徹底に努め、制度の適切な運用を担保する措置の構築」を強く求めている。
改めて厳格なセキュリティシステムを前提とした、情報管理を一段と強めることを求める。
4.社会保障制度のあり方について
高齢化社会の急進展で今後の社会保障給付は急速な増大が見込まれ、財源を消費税に頼るも限界が見えている。課題は給付を「重点化・効率化」によって抑制し、併せて公費以外の公平で適正な負担をどう確保していくかが重要になる。年金、医療、介護、少子化対策等の分野について、将来を見据えた議論が必要と考える。